死んだ旦那の弟と
  • DL配信日2024.2.21
  • パッケージ発売2024.3.15

DLsite5,000DL超の人気作品
新キャストに三橋渡・八神仙を迎え、
黒い令嬢がシチュエーションCD化!
新規エピソードも収録!


『死んだ旦那の弟と』は戦時中の有田家を舞台に、
夫の謎の死を巡り次第に明かされる一家の闇、兄弟の秘密。
兄弟との愛憎渦巻く和風ミステリーNTR音声作品です。

全編ダミーヘッドマイクで収録し、黒い令嬢ならではの
設定や史実、演出、SEでお届けします。


― ニュース ―News

― あらすじ ―Story

戦時中、有田家
はじまりは、夫の謎の死

生前、夫はあそこを「人外の檻」と呼び、
<私>が近づくのを恐れている様子だった――

「兄さんのおかげで二年間も
座敷牢に閉じ込められてたんだ。
顔なんか忘れたって仕方ないです」
「でもこれからはちゃんと、
旦那様と呼んでくださいね?」

徐々に明らかになっていく、三つの秘密――

事故死で亡くなった夫――

「あの日……、兄さんが死んだあの日、酔ってこの牢までやって来て……」
「だから言ってやったんだよ」

夫の弟――

「あの頃からずっと、
俺はお前のことしか考えてない」
「お前のことを一番愛してたのは俺だ」

そして、<私>――

『死んだ旦那の弟と』

――欲望が用意周到に張り巡らされた人の檻
その行為を受け入れるたびに、
澱が舞い上がる――

あなたは、いったい、誰ですか?

有田泰隆

(CV:三橋渡/一条ひらめ ※旧キャスト

精神を病み幽閉されていた義弟。
亡き夫の遺言で有田家当主に。

有田清流

(CV:八神仙)

事故で亡くなった。
礼儀正しく高潔だが、心に暗い欲望を隠し持つ。

貴方

数年前、清流との出会いがきっかけで、
有田家に嫁いだ。

― 作品情報 ―Products

完全版CD

死んだ旦那の弟と完全版
  • DL配信日2024.2.21
  • パッケージ発売2024.3.15
限定音声付き豪華3枚組限定1000部生産

・完全版CDだけの特典3P音声トラック
・特別仕様の型抜きブックレット封入

トラックリスト&試聴

死んだ旦那の弟と(上巻)
有田泰隆(CV. 三橋渡)

  • 夫の棺桶の前で…
  • 親族会議
  • 柿の木の下で辱められて…
  • なんだって知ってる。お前のことも、兄さんのことも
  • 座敷牢で…

死んだ旦那の弟と 前日譚(下巻)
有田清流・有田泰隆(CV. 八神仙・三橋渡)

  • 仮面の下
  • 兄の奸計
  • 白無垢を覆う影
  • 渇きと苦悩
  • 風呂場で…
  • 人の檻と傀儡
  • あなたは、いったい、誰ですか?

完全版特典CD「淫夢」
有田清流・有田泰隆(CV. 八神仙・三橋渡)

  • 淫夢

音声特典あらすじ

「淫夢」
有田清流・有田泰隆(CV. 八神仙・三橋渡)

貴女が気に入るだろうと清流が角砂糖を買ってくる。
食べると、次第に体に熱を帯び始めて……
「今夜はいつも以上に楽しめそうだ。いつものように目隠しをして乱れろ。
淫欲に溺れてただのメスになるお前の姿を私に見せてくれ」
清流と泰隆に攻められ、いつもより激しく淫れ狂う夜……
【対象:CD封入、ポケドラ】


「分からせる男」有田泰隆(CV. 三橋渡)

亡き夫、清流の墓参りに外出すると、泰隆が貴女をなじる。
いつまでも清流を想い続ける貴女に
「今は誰のものなのか、今一度お前の体に分からせるだけだ」
と愛憎を注ぎ続けて――。
【対象店舗:ひつじぐも公式通販、がるまに】


「幸せにできない男」有田清流(CV. 八神仙)

いつものように激しく繋がり合う清流と貴女。
貴女の泣く姿を見て優しく抱こうと清流が囁く。
「お前に触れて、 可愛がっていると満たされる気がするよ。
不思議だな、こんな気持ちを私が抱くとは……」
いつもとは違う優しく甘い刻を過ごすふたり――。
【対象店舗:ステラワース、がるまに】

その他特典情報は、ひつじぐもブログ にて公開中!

コミカライズ

死んだ旦那の弟とコミカライズ

狂気と愛情が交錯する本編を、寝子空兄先生の美しいタッチでコミカライズ。大ボリューム80P。

旧キャスト版音声

死んだ旦那の弟と旧音声

DLsiteがるまにで大ヒットしたCone and Dome原作の音声ドラマ。一条ひらめ氏が熱演。

― スペシャル ―Special

キャストインタビュー

三橋渡さん / 有田泰隆 役

――収録ありがとうございます。お疲れさまでした !

――今回の企画についての印象や感想を教えていただけますでしょうか。

時代背景とその中で生きていくしかない人たちの、愛憎が印象的です。

泰隆と清流のお互いに向ける思い、ヒロインへの感情の大きさに圧倒されました。


――演じられたキャラクターの魅力をお伺いできますでしょうか。

泰隆は感傷の中で生きているように見えます。感傷は生傷で、癒えることなく痛みと熱を持っています。それが彼を精神的に不安定にさせており、その危うさが魅力的なのではないでしょうか。


――泰隆を演じるにあたって心がけた点や難しかった点、または演じやすかった側面などありますでしょうか?

心がけたのは次になにをするかわからない感です。

人を試すような物言いをしますが、彼がなぜその言動を選んだのか、ひとつずつ考えていくのは難しくもあり楽しかったです。


――今回の収録で印象に残ったシーンや台詞はありましたでしょうか? また、聞きどころをぜひご紹介してください !

本編一番最後の台詞がとても印象的です。

泰隆にとってはそう思うしかないところまで追い詰められた、そうでなければ筋が通らないという気持ちを感じており、大切な言葉だと思って演じました。


――もし自分が泰隆だったら、ヒロインとはどんな未来が理想でしたか?

自分であれば、ヒロインと日々ちょっとした楽しいことを見つけて一緒に過ごしていきたいです。

でも有田家の重責、そして亡くなった兄さんへの思いもあり、この運命からは逃れられないんじゃないかなと思います…。


――最後に、CDの発売を楽しみにしているファンへのメッセージをお願いします !

縁あって泰隆役を演じさせていただきました。

自分であればどうするだろうと考えてやらせていただきました。

愛憎入り混じる関係性がお好きな方はぜひ !


八神仙さん / 有田清流 役

――収録ありがとうございます。お疲れさまでした !

――今回の企画についての印象や感想を教えていただけますでしょうか。

企画の話と一緒に台本もいただいたのですが、僕は企画書の前に台本に目を通してしまって、本当に受けた印象は「重いな……」でした(笑)。それは作品の内容プラス、企画書をいただいた段階で作り手の皆さんがどのくらいこの作品自体に力を込めているのかを感じ取ってしまったが故で、もうプレッシャーでしかなかったですね。今回、三橋渡さんと共演するということで、何作か共演というのはありましたが、お互いがお互いを聴いていない状態が多いので、一人だったら「やりたいように」と言ったら失礼ですけれども、思った通りに動ける部分や表現できる部分はありますよね。ただやっぱり相手がいらっしゃると「どういう風にしてくるだろう」と想像して色々制限をかけると言いますか、調和がとれるようにしないとと考える部分もあり、その点も含めて今回のお話をいただいた段階では、楽しみ3:プレッシャー7、みたいな感じで臨みました。


――演じられたキャラクターの魅力をお伺いできますでしょうか。

あくまで自分が演じたうえでの部分もあるんですけど、ストーリー自体は戦時中のお話ということで、言葉遣いとして凄く丁寧な物腰柔らかいところから始まります。そこから、絡みのシーンでちょっとSな部分が出て、徐々に徐々に清流の性格が開放されていき、エンディングに向けて「自分ですら理解のできない感情の揺らぎ」が出てくるのはすごく魅力的な部分かなと思います。冷静さの中に熱情的なものもあり、どこか悲観というか悲しい部分もあったりと、色んな側面が見られるのがこのキャラの魅力なのかなと思います。


――清流を演じるにあたって心がけた点や難しかった点、または演じやすかった側面などありますでしょうか?

魅力の部分の一つで言ってましたが、やっぱり感情の起伏というか、色んな想いが生まれてくる瞬間に対してどこか、極端に言えば差であったりの部分を出したかったというのはかなり心がけていました。今回は相手役もいらっしゃって、泰隆との掛け合いのシーンと、ヒロインに向けての部分でトラックが分かれているというのもあったので、対相手の変化によって態度が変わる感じみたいな部分はすごく考えましたね。「同じではないだろうな。でも同じ清流が発するという言葉なのであればちゃんと意味があるだろうし」という部分の差はすごく考えました。

演じやすかった面は、これは言うのも憚られるんですけれども、Sな部分ですね。収録中も、「好き」という愛情、大事にしたい・優しくしたいという部分と、どこか酷い目に遭わせたい・むごたらしい目に遭わせたい、しかも自分の手で、というギャップの場面で、僕とスタッフさんでちょっとした台本の解釈の不一致がありまして。「じゃあ攻めていいんですね ! 」となったときに自分の中でワクワク・ウキウキして「Sな性格は演じやすかったんだな」と思いました(笑)。


――今回の収録で印象に残ったシーンや台詞はありましたでしょうか? また、聞きどころをぜひご紹介してください !

自身の秘密というか変化を弟に打ち明ける瞬間は葛藤がかなりあっただろうし、そこから弟に「そそのかされて」に近い形で後の対応が変わってくるという部分は、かなりシーンとして印象的でしたね。上手いこと丸め込まれたと言いますか、弱っているからこそ人の意見を受け入れてしまったと言いますか、そういったニュアンスも含めたので、聴きどころはそのシーンかなと思います。もちろん楽しめるシーンと言いますか、先ほど僕が楽しんでやっていたウキウキのドSシーンなども聴きどころではありますが、今回は複数人作品ということで掛け合いの部分にあたる葛藤のシーンはぜひとも聴いていただけたらと思います。


――もし自分が清流だったら、ヒロインとはどんな未来が理想でしたか?

清流は「酷いことをしないと興奮しない」みたいな性分なので、僕はその時点で「清流だったら」が想像できないですね。「もしもこの世界の立ち位置の清流が僕だったら」であれば、まず弟は解放してあげたいです。僕だったら、弟がヒロインに目を付けた時点で弟を応援します。弟の邪魔をしたいとか、弟が悲しむ顔が見たいとか、そういうのは無いので。基本的には「そうか、頑張れよ」って背中を押してあげたいタイプです。仮にそれで僕が一人だったとしても、家のことはしっかりやります。「家のことは任せてお前は自由に行ってこい」って送り出すと思います。


――最後に、CDの発売を楽しみにしているファンへのメッセージをお願いします !

今作は内容的にはかなり重めではありますが、だからこそ見えてくるキャラクターの内面だったりとか内に秘めたるもの、表面に出ているものという部分との違いはしっかり演じられたのかなと思っております。自分が演じた清流というキャラクターも、三橋さんが演じる泰隆も、おそらく皆さんの中で好みは生まれると思いますが、気持ちだけは目いっぱい込めました。どちらも推してくれとは言いませんが、トータルしてこの作品が好きになってくれたら嬉しいです。素晴らしい作品になったかなと感じますし、そこまでのお力添えを僕自身、なんとか貢献できたかなと思っておりますので、楽しんでいただけたら嬉しいなと思います。

プレリュードSS

悪夢のはじまり / 有田泰隆・有田清流

 仕事先へ出向いた帰り、停めておいた車へ戻る途中のことだった。

 清流は、よく知る姿を街角で見かけ足を止めた。学生服姿の弟、泰隆だ。

 たったふたりの兄弟ではあるが、示し合わせて出掛けるようなこともこの歳になれば滅多にない。屋敷外で見かけるのは妙な感じだった。子どもの頃は両親に連れられ出掛けることもありはしたが、大人になればそんな機会もない。

 声でも掛けてやろうかと思ったが、泰隆の視線の先に気づいて清流は踏みとどまった。

(女か……)

 泰隆は、女学生ふたり組に目を向けたまま動かない。ねめつけるような、なんとも言えない視線に違和感を覚えるが……なるほど、好いているのだろう。

 さてどちらの女を見ているのか。

 兄弟の直感とも言えるかもしれない。色の白い、大人しそうなあの女のほうだろう。からかってやろうかと嘲笑した矢先、泰隆は顔を伏せて歩き出し、女学生ふたりを追い越した。そのまま先にあるカフェへ入る。

 どういうことだろうかと清流が様子を見ていると、女学生たちもお喋りをしながら同じカフェへ入って行った。

(いつもこうしてつけ回して、先回りをして観察か? 追いかけ回すばかりで声も掛けられないとは我が弟ながら情けないな)

 清流は足早に歩き出すと、先ほどの女学生が落としたハンカチを拾い上げた。

 何事も行動に移した者の勝ちだ。

 清流もまた、カフェの扉を開いた。


 店内へ入ると、右奥の席に泰隆、正面の席に女学生が座っていた。当の泰隆は女学生の観察に夢中で兄が現れたことに気がついていない。

 清流が一直線に女学生の席へ向かうと、彼女が不思議そうに顔を向ける。

 カフェに入り込む光彩で彼女の頬がほんのりと照らされ、血色の良い頬と唇が際立った。化粧もしていないというのにまるで紅を引いたような唇をしているし、黒目がちな瞳は男をそそる何かがある。

 確かに。近くで見れば益々可愛らしい女だ。泰隆が惚れるのも頷けると、清流は心の中で納得した。

「失礼。こちら、貴女のハンカチでしょう?」

 先ほど落としたハンカチを差し出すと、彼女は驚いたように目を瞬かせ、すぐさま立ち上がった。

「は、はい……そうです ! 」

 声まで美しかった。鈴を転がすような声音は耳に心地好い。

 泰隆はこの声を聴いたことはあるのだろうか……? それを考えると、清流は胸が躍るのを感じた。

 恐らく泰隆よりも先に、この声を耳にしたのだ。

「良かった。先ほど落とされたのを見かけたので、お届けにきました」

「そんな !  お手間をおかけして申し訳ございません」

 控えめな物腰と丁寧な口調。

 清流の心に不可思議な疼きが起きる。それは、これまで知らなかった、誰かを手に入れたいという欲望。渇望に似た熱いもの。

 その感情は、生意気な弟のお気に入りをただ奪って虐めてやりたいという……単純なソレだけではないように思えた。

 そんなことを清流が感じているとは思いもせず、彼女は邪気のない顔で微笑んだ。

「このハンカチ、私が初めて刺繍をしたもので……。だから、本当にありがとうございます」

「なるほど」

 ハンカチを手渡しながら、清流は改めてその真っ白な純潔のハンカチを見やった。

「確かにとても綺麗な花の――ああ、睡蓮か。貴女によくお似合いの美しい睡蓮です。手元に戻って良かったですね」

「はい ! 」

 彼女が、照れてはにかみ頬を染める。

 やはり彼女の何かが、清流の心を揺らがせる。

「では、私はこれで。ご友人との時間を邪魔して失礼しました」

「いえ、そんな !  あ、その……」

 彼女が何かを言おうと悩んでいる。だがここで長居は禁物だろう。

 背後に泰隆の視線が突き刺さるのを痛いほど感じながら、清流はそう思った。

「仕事に戻りますので。またきっと、お会いできます」

 それ以上の会話は無用だと、清流は踵を返す。彼女はその背中に再度頭を下げた。

 その一連の出来事を、憎悪にも近い視線で見つめる男の姿があるとは、彼女は知ることもなく――。


・・・・・・・・・・・・・・・・


 その晩、有田家にて――。

「兄さん ! 」

 夕食をとっていた清流の元へ、泰隆が凄い剣幕で怒鳴り込んできた。

 予想通りの行動を取られた清流は、平然と食事の手を止めることなく応える。

「泰隆、行儀が悪いぞ。食事の時間にも遅れて何をしていた。いくら今日は父さんも母さんもいないとはいえ――」

「しらばっくれるつもりかっ ! 」

 食卓へ乱暴に手をつく泰隆を前に、清流はようやく食事の手を止めた。

「……なんのことだ。本当に行儀の悪い」

「彼女のことだよ !  俺のことを知っててわざとハンカチを拾ったんだろ !  卑怯だ」

「ハンカチ、だと?」

 清流の口から自然と笑みが漏れる。

 泰隆は忌々しげな顔をして、唇を噛み締めた。

「なんでいつもこんなことするんだよ。そんなに俺を虐めて楽しいか」

「泰隆、今夜はお前の好きな肉料理だよ。早く席に着きなさい」

「飯なんか食ってる場合かっ ! 」

 清流はわざとらしくため息を吐く。

 弟が吠えれば吠えるほど、愉快な気持ちが湧き上がってきて痛快だった。自身と違い、奔放でありのままに生きる泰隆が昔から気に食わなかった。有田家の長男として生まれや立場をわきまえ生きてきた清流にとって、目障りでならない存在だったのだ。昔から。

「いつもいつもこんなことばかりしやがって。そのクソみてえな性根……本気でぶっ殺してやりてえ」

「汚い言葉を使うな。有田家の人間としてふさわしくない」

「クソ野郎にクソだと言ってるだけだろうが !  猫被りやがって」

「落ち着きなさい」

「嫌だね !  兄さんはどうせ、俺が彼女を狙ってるのを知っててやったんだろ? それで? これからどうするつもりだよ。その嘘ばっかの上っ面で騙して手込めにでもするつもりか。絶対に許さねえからな」

「お前が許す許さないは関係のない話だ」

「……クソ。一発、殴ってやりてえ」

「それで気が済むのか」

「済むわけないだろッ ! 」

「ではやめておきなさい」

 泰隆は今にも殴りかかりそうな勢いで鼻息を荒くしている。

 それでもなお清流は平然と、心の中ではほくそ笑みながら言葉を続けた。

「なあ泰隆。彼女のハンカチはとてもいい匂いがしたよ。純潔な石けんの香りだ。今夜はそのことを思いながら自分で慰めるといい。さぞ惨めで興奮するだろう」

 我慢ならなくなった泰隆が、清流を突き飛ばした。弾みで食器が落ち、割れて音を立てる。

 もちろん、清流はハンカチの匂いなど嗅いでいない。こう言えば泰隆がさらに逆上するだろうという計算の上での発言だ。

 泰隆は倒れた清流に拳を振り上げている。今にも殴りかからんばかりに手を震わせて。

 だが彼は……そうしなかった。

「……兄さんは人として狂ってる。頭がイカれちまってるよ」

 その言葉を聞いた清流は、笑いが込み上げるのを我慢できなくなった。一度笑い出してしまえば堰を切ったように笑い声が零れ出てくる。

 愉快で愉快で堪らない。

 そんな清流を悲しげに一瞥して、泰隆は部屋を出て行った。

 やがて笑いが引き、心の中にどんよりとした鉛のような闇が落ちる。いつもそうだった。何事も愉快なのはいっときのことだ。過ぎてしまえばまるでそれは嘘だったかのように消えてなくなり、重みだけが残る。

 清流の心の中の闇。重み。

 それが泰隆の心に巣くうのも、もう間近だった――。


・・・・・・・・・・・・・・・・


 それからひと月後のこと。

 清流は彼女の通う女学校の校門前に立っていた。もちろん彼女を待っているのだ。

 泰隆の反応はあまりに愉快だった。アレは本物だ。本当に彼女を愛している。

 とあらば――。


 帰宅する学生たちの波に乗って、あの日出会った彼女の姿が現れる。今日も邪気のない可愛らしい笑みを咲かせながら友人たちとお喋りをして歩いてきた。

 清流と視線が絡む。その瞬間、彼女は驚いた顔で足を止めた。

「お久しぶりですね。お待ちしていました」

 周りにいた女学生たちから黄色い声が上がる。彼女の頬は一気に恥じらいに染まり、声にならない声で返事をした。

「よければ、駅まで一緒に歩いても良いですか? 少しお話がしたくて」

 また、彼女は友人たちに囃し立てられる。恥ずかしそうに僅かに俯いて、小さく頷いた。

 それからいざふたりで歩き始めてみると、清流は思いのほかむず痒い気持ちになるのを感じた。だがおかしな話だ。こんなただの女におかしな気持ちを抱くなど。

「驚きましたよね。でも、あの日からどうしても貴女のことが忘れられず……」

 彼女が弾かれたように顔を上げる。だが何を言えばいいのか惑ったのか、また顔を伏せてしまった。

「先日も制服を着てらしたので、すぐに通われている女学校のことは分かりました。その後、貴女とはとても縁が深いことも……」

「……? どういうことですか?」

「貴女の親戚にあたる藤波氏が、私の父と仕事で懇意にさせていただいていたようで。貴女のこともよくご存じでした。聡明で気立ての良い、素敵なお嬢さんだと……」

「そんなことは……」

 謙遜して、耳まで真っ赤にして恥じらっている。清流は確かな手応えを感じた。

「私はこれを、運命のように感じますよ」

 清流が足を止める。彼女も足を止め、ふたりは見つめ合った。

「出会うべくして出会ったふたりだと……そう、思いませんか?」

 清流の柔らかな笑みは、まさかそれが仮面だとは思えぬほど完璧で……。

 まるで人を魅了する悪魔のごとく彼女の心を奪い掌握したのだった――。


Fin.

― ご購入者様の声 ―User comments

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インモラルで、時代の空気感をたっぷり感じさせる作品。濃密、淫靡、狂気…そんな言葉が似合います。 聴き終えた後の満足感が凄かった!
本を一冊読み終えた感じです。

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音声のクオリティがとっても高いので、臨場感がすごいです。
それがまた不気味さを際立ててます。

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もう本当に愛されてます。
色んな意味で。